Book Review 伊勢方信歌集 『ピアフは歌ふ』 [短歌]
平和への希求が込められた歌集である。『ピアフは歌ふ』というタイトルは、「ポンピドゥー・センター傑作展」と銘打って、二〇一六年に東京都美術館で開かれた展覧会における体験からとられたものである。一年一作家の作品が展示されるなかで、一九四五年だけ作品の展示がなく、エディット・ピアフの「バラ色の人生」が静かに流れていた情景である。
バラ色の人生はたれも知らぬゆゑ声おさへ歌ふエディット・ピアフは
結社「朱竹」入会からでも半世紀を超えるベテラン歌人の、現実を見つめ本質をえぐり出す作品群である。収められた四五九首は、自然から社会、家族まで多様な対象から切り取られ、作者の感慨がわかりやすく表出している。そのなかには、現政権の改憲志向に対して、歴史を根拠に異議を唱える作品もある。
帝都には白き棲むと知る 何からひつくりかへるかこの国
普天間基地のぞみてよぎれり終戦はうそのごとしも 嘘かも知れぬ
改憲派の主張聴きゐてミュシャ描く「スラブ叙事詩」の死馬たちあがる
決して声高にはならず、皮肉めいた歌い振りでもない。ピアフが歌手としてなし得たように、歌人が短歌でなすべきことを示している。
(本阿弥書店 〒101-0064 東京都渋谷区猿楽町2-1-8 電話03-3294-7086 定価2,700円+税)
/////短歌人2018年5月号寄稿 /////
写真日乗2018/04/24〜これが最後の仁左衛門「絵本合邦衢」〜 [日記]
撮影:2018/04/24 於:東京・歌舞伎座
SONY RX100Ⅲ
4月の大歌舞伎は、南北の「絵本合法衢」である。左枝大学之助と立場の太平次という悪の二役を仁左衛門が勤める。当り芸であるが、初演は幸四郎、昭和の復活は左團次というから、江戸の色合いの濃い演目だ。仁左衛門が「一世一代」と銘打った公演だが、それは「これが最後」ということだ。
写真日乗2018/04/23〜満開の藤〜 [日記]
写真日乗2018/04/15〜短歌人四月号掲載作品「立春」〜 [短歌]
気仙川行きつ戻りつするわれの真顔かすかに映る液晶
桁橋は壊されしまま七年の歳月われを凍りつかせる
われがあの日あの時ここにいて立ちすくむごとく震える
海抜が少しあがれば残りたる鉄路西へと真直ぐにのびる
永遠にここに列車は走らぬと風花ふわりレールにとまる
夕暮れの雪つもりたるホームにて踏み跡のこしクルマに戻る
BRT導入のされ赤色のバス来るはずの道をゆく人
すすり泣く声のごとくに雪解けの峠にひびくロードノイズは